を、
葡萄の蔓に抜き負ひて、
よろぼひ渡る藤の棧橋。
あやしむ人をあやしみつゝ
樵夫はいまぞ還り來れる。

    氷塊一片
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昨秋予の西遊を思ひ立つや、岡本倶伎羅氏を神戸の寓居に叩かんと約す、予が未發程せざるに先だち、氏は養痾の爲め、播磨の家島に移りぬ、予又旅中家島を訪ふを果さずして歸る、近頃島中の生活養痾にかなへるを報じ、且つ短歌數首を寄せらる、心爲に動き即愚詠八首を以て之に答ふ(其六首を録す)
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津の國のはたてもよぎて往きし時播磨の海に君を追ひがてき

淡路のや松尾が崎もふみ見ねば飾磨の海の家島も見ず

飾磨の海よろふ群島つゝみある人にはよけむ君が家島

冬の田に落穗を求め鴛鴦の來て遊ぶちふ家島なづかし

家島はあやにこほしもわが郷は梢の鵙も人の獲るさと

ことしゆきて二たびゆかむ播磨路や家島見むはいつの日にあらむ

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女あり幼にして母を失ひ外戚の老婦の家に生長せり、生れて十七、丹脣常に微笑を湛へて嘗て憂を知らざるに似たり、之を見るに一種の感なき能はず乃ち爲に短編一首を賦す
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母があら
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