くて只管に夫を手依りしものゝ、夫は補充兵として横須賀に召集せられむとす、夫の歸らむまでは江戸の舊主のもとをたづねて身をつつしみ居らむと思へど二人が胸には餘りたれば今は故郷なる父母に咨らむとて行くなりといふ。其言惻々として人を動かす、東京といはずして江戸といふ、何ぞ其朴訥なるや、朴訥なるものは世情を知らず、世情を知らざれば則ち悲しむこと多きなり。乃ち彼が心に代りて作れる歌十首のうち
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松魚釣あるみにやりて嘆かぬをいくさといへば心いたしも
清澄の隱るゝ沖に嵐吹き歸らぬ人もありとは思へど
我が背子と夜床に泣けば思ふことかたみいひえず胸には滿つれど
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小湊誕生寺の傍より舟を傭ひて鯛の住むといふ海を見に行きて作れる歌のうち
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妙の浦こゝだも鯛のよる海と鵜の立つ島をさしてぞ漕ぎ來し
海人の子の舷叩き餌をやれば鰭振る鯛のきらゝかに見ゆ
磯※[#「さんずい+和」、第4水準2−78−64]のよろしき日にも鯛のよる貽貝《いがひ》が島は波うちしぶく
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磯傳ひに南のかたへ志して行く
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