居てうぐひすの啼く
蕷《いも》の蔓枯れてかゝれる杉垣に枝さし掩ひ梅の花白し
鬼怒川の篠の刈跡に柔かき蓬はつむも笹葉掻きよせ
淡雪のあまた降りしかば枇杷の葉の枯れてあり見ゆ木瓜のさく頃
槲《かしは》木の枯葉ながらに立つ庭に繩もてゆひし木瓜あからみぬ
枳殼の眞垣がもとの胡椒の木花ちりこぼれ春の雨ふる
春風の杉村ゆすりさわたれば雫するごと杉の花落つ
桑の木の藁まだ解かず田のくろにふとしくさける蠶豆の花
鬼怒川の堤の水蝋樹《いぼた》もえいでゝ簇々さけり黄花の薺
桑の木のうね間/\にさきつゞく薺に交る黄花の薺
さながらに青皿なべし蕗の葉に李は散りぬ夜の雨ふり
山椒の芽をたづね入る竹村にしたごもりさく木苺の花
樫の木の木ぬれ淋しく散るなべに庭の辛夷も過ぎにけるかも
木瓜の木のくれなゐうすく茂れゝば雨は日毎にふりつゞきけり
我が庭の黐の落葉に散り交るくわりむの花に雨しげくなりぬ
房州行
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五月廿二日家を立つ、宿雨全く霽れる、空爽かなるにニンニン蝉のやうなる聲頻りに林中に聞ゆ、其聲必ず松の木に在るをもて人は松に居る毛虫の鳴くなりといふ
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