もなきとをもなきと蕗の葉蔭を二わかれ行く

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秀眞子ひとり居の煩しきをかこつこと三とせばかりになりけるが、このごろうら若き女のほの見ゆることあるよしいづこともなく聞え侍れば、彼れ此れとひたゞせどもえ辨へず。その眞なりや否やそは我がかゝつらふところに非ず。我は歌をつくりてこれを秀眞がもとにおくる。秀眞たるもの果して腹立つべきか、またはうち笑ひてやむべきか、只これ一時の戯れに過ぎざるのみ、歌にいはく
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萬葉の大嘘《おほをそ》烏をそろ/\秀眞《ほつま》がやどに妻はあらなくに

ひとりすむ典鑄司《いもじ》あはれみ思へれば妻覓ぎけるか我が知らぬとに

商人の繭買袋かゝぶらせ棚に置かぬに妻隱しあへや

鷸の嘴かくすとにあらじ妻覓ぐとつげぬは蓋し忘れたりこそ

唐臼の底ひにつくる松の樹の妻を待たせて外にあるなゆめ

馬乘りに鞍にもたへぬ桃尻《もゝじり》の尻据らずば妻泣くらむぞ

粘土を溲《こ》ねのすさびにかゞる手を見せて泣かすなそのはし妻を

あさな/\食稻《けしね》とぐ手もたゆきとふはし妻子らを見せずとかいはむ

      尾張熱田神宮寶物之内七種
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