を強國といへど、
恫喝を以て誇るのみ、
世界の人怯懦にして、
我が暴戻を制せむとせず。
義憤にあへばかくの如し。』
骸骨は首肯きて、
『我等も嘗て世界を欺き、
眠れる獅子といひ觸しゝが、
假面はつひに剥がれたり。
弱きものと弱きもの、
君等と我等と睦び居らむ。
我もむかしは孔雀の尾を
飾りし軍帽嚴しく、
尖のひらきたる劔を握り、
進むには必ずしりへに立ち、
退くにはさきに立ちたりしが、
かく骸骨となりたれば、
孰れを孰れと分き難し。
まこと貴賤も貧富もなき
自由平等の樂天地は、
はじめて茲に發見すべし。』
死屍は聞きて嬉しげに、
『好誼ある君達かな。
さらば我も語るべし、
稍物いふに馴れしごとし。
我が艦隊の長官は、
白銀の如く輝きたる
二尾の髯を胸に垂れ、
風采すぐれし老將なれど、
昨夜夫人の誕辰に會ひ、
部下を率ゐて市街に上り、
觀劇に耽りしその隙に、
あはれ突撃を蒙りぬ。
我等もさまで弱きにあらねど、
敵の勁きこと比なきなり。』
骸骨は珍らしき物語を聞き、
『君語れ、またさらに語れ、
我等はもと酒煽り、
婦女子を捉へ辱めしが、
いま無欲なる骸骨となりては、
徒にそを悔い居るなり。
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