眞熊野の熊野の山におふる樹のイマメの胴のうづの※[#「(口+口)/田/一/黽」、147−3]《だ》太鼓
天飛ぶや鵄の尾といひ世の人のさばの尾ともいふ朱塗《あけぬり》の琴
瀬戸の村に陶物燒くと眞埴とりはじめて燒きし藤四郎が瓶
瀬戸物のはじめに燒きしうすいろの鈍青色の古小瓶六つ
春の野の小野の朝臣がみこともち仕へまつりし春敲門の額
熱田のべろ/″\祭べろ/″\に振らがせりきといふ兆鼓《ふりつゞみ》
大倭國つたからにかずまへる納蘇利《なつそり》崑崙八仙の面
尾張のや國造の宮簀媛けせりきといふ玉裳御襲
大阪四天王寺什物之内四種
廏戸の皇子の命の躬《みづか》らつゞれさゝせる糞掃衣これ
物部の連守屋を攻めきとふ鏑矢みれば悲しきろかも
御佛の守の袋七袋|太子《みこ》がもたしゝその七袋
廏戸の皇子がかゝせる十あまり七條憲法《なゝおきてぶみ》見るがたふとさ
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明治三十六年七月我西遊を企つるや、格堂に約するに途必ず備前に至らむことを以てす、しかも足遂に大阪以西を踏むに及ばず、頗る遺憾となす、九月格堂遙に書を寄せて我が起居を問ふ、應へず、十一月下旬具さに怠慢の罪を謝して近況を報ず、乃ち兒島の地圖を披きて作るところの短歌五首之をその末尾に附す、歌に曰く
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おほ地の形の刷り巻ひらきみれば吉備の兒島は見えの宜しも
なぐはしき苧環草のこぼれ葉ににるかもまこと吉備の兒島は
眞金吹く吉備の兒島は垂乳根の母が飼ふ兒のはひいでし如
燒鎌の利根のえじりと瀬戸の海と隔てもなくばしきかよはむに
茅渟の海や淡路のみゆる津の國へ行きける我や行くべかりしを
時は來れり
ひた待ちし時今來たり眞鐵なす腕振ふべき時今來たり
大君の民にしあれば常絶えず小鍬とる身も軍しに行く
小夜業に繩は綯ひしを大君の御楯に立つか召しのまに/\
ますら男は軍に出づも太腿をいかし踏みしめ軍に出づも
おもちゝも妻も子供も大君の國にしあるを思ひおく勿れ
妻の子はおほに思ふな時に逢ひて大御軍に出づとふものを
隱さはぬますら健夫や大君の召しのたゞちに軍に出づも
うなし毛ゆ脚のうら毛も悉く逆立つ思ひ振ひて立たむ
いけるもの死ぬべくあるを大君の軍に死なば本懷《おもひ》足りなむ
しましくもいむかふ軍猶豫はゞ思へよ耻の及くものなきを
迦具土のあらぶるなして忽ちに拂ひ竭さむ夷の限り
恨積む夷をこゝに討たずしてなにするものぞ日本軍は
御軍の捷ちの知らせを隙も落ちず待ちつゝ居れば腕鳴り振ふ
衣
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アイヌが日常の器具などを陳列せるを見てよめる歌三首
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アイヌ等がアツシの衣は麻の如見ゆ うべしこそ樹の皮裂きて布は織るちふ
アイヌ等がアツシの衣冬さらば綿かも入るゝ蒲のさ穗かも
アイヌ等は皮の衣きて冬獵に行く 鮭の皮を袋にむきし沓はきながら
くさ/″\の歌
榛の木の花をよめる歌
つくばねに雪積むみれば榛の木の梢寒けし花はさけども
霜解のみちのはりの木枝毎に花さけりみゆ古殻ながら
はりの木の花さく頃の暖かに白雲浮ぶ空のそくへに
田雀の群れ飛ぶなべに榛の木の立てるも淋し花は咲けども
煤火たきすしたるなせどゆら/\に搖りおもしろき榛の木の花
はりの木の皮もて作る染汁に浸てきと見ゆる榛の木の花
榛の木の花咲く頃を野らの木に鵙の速贄《はやにへ》はやかかり見ゆ
はりの木の花さきしかば土ごもり蛙は啼くも暖き日は
稻莖の小莖がもとに目堀する春まだ寒し榛の木の花
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稻ぐきのもとなどに小さなる穴のあるを堀り返して見れば必ず鰌の潛み居るを人々探り出でゝはあさるなり、これは冬の程よりすることなるが目堀とはいふなり。
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春季雜咏
淡雪の楢の林に散りくれば松雀が聲は寒しこの日は
筑波嶺に雪は降れども枯菊の刈らず殘れるしたもえに出づ
淺茅生の茅生の朝霜おきゆるみ蓬はもえぬ茅生の淺茅に
枝毎に三また成せる三椏《みつまた》の蕾をみれば蜂の巣の如
春雨のふりの催ひに淺緑染めいでし桑の藁解き放つ
海底問答
二月八日の眞夜中より
九月にかけて旅順の沖に
砲火熾に交れば、
千五百雷鳴り轟き
八千五百蛟哮え猛び、
世界は眼前に崩壞すべく
思ふばかり凄じかりき。
碧を湛へし海水に、
快げに、遊泳せる鱗《うろくづ》は、
鰭の運動も忙しく、
あてどもなく彷徨ひぬ。
昆布鹿尾菜のゆるやかに
搖れつゝあるも、喫驚と
恐怖のさまを表明せり。
かゝりしかば海の底に、
うち臥し居たる骸骨ども、
齊しくかうべを擡げながら、
うつろの耳を峙てしが、
ばら/\に散亂せる白骨を
綴り合
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