に蒲公英の霜にさやらひくきたゝず咲く
此あしたおく霜白き桑はたの蓬がなかにあさる鳥何
をちかたの林もおほに冬の田に霞わたれり霜いたくふりて
變體の歌
一
炭竈を、庭に築き、二つ築き、たえず燒く。厩戸の枇杷がもと、掻き掃きて炭を出す、雨降れど、雪降れど、菰きせて、濡らしもせず。眞垣なる、棕櫚がもと、眞木を積む、※[#「鹿/(鹿+鹿)」、第3水準1−94−76]朶を積む、楢の木、櫟の木、そね、どろぶの木、くさぐさの、雜木も積むと、いちじくの、冬木の枝は、押し撓めて見えず。
二
炭出すや、匍匐ひ入る、闇き炭がま、鼻のうれ、膝がしら、えたへず、熱き竈は、布子きて入る、布子きて入る、熱きかま、いや熱きは、汗も出でず、稍熱きかまぞ、汗は流る、眼にも口にも、拭へども、汗ながる/\。
三
萱刈りて、篠刈りて、編むで作る、炭俵、炭をつめて、繩もて括る、眞木ゆひし、繩を解きて、一括り、二括り、三括りに括る、大き俵、小さ俵、左から見、右から見、置いて見つ、積むで見つ、よろしき炭、また燒いて、復た燒き燒く。
四
炭がまに、立つけぶり、陶物の、管をつなぎ、干菜つる、竹村に、をちかたに、導けば、をちかたに、烟立つ、夜見れば、ふとく立ち、日に見れば、うすく立ち、白烟、止まず立てば、竹の葉は枯れぬ。
五
眞木伐りて、炭は燒く、炭燒くは、櫟こそよき、梔を、つゝき破りて、染汁に、染めけむごと、伐り口の、色ばみ行く、眞木こそよき、櫟こそよき。
六
疱瘡《もがさ》やみ、鼻がつまれば、枳※[#「木+惧のつくり」、第4水準2−15−7]《けんぽなし》、實を採り來、ひだりの、孔にさし、みぎりの、孔にさし、忽ちに、息は通へど、炭竈の、烟噴き孔、土崩えて、塞がりてありしを、知らずと燒きし、かゝり炭、いぶり炭、へつひには、火が足らず、火鉢には、烟立つ、いぶり炭、かゝり炭。
春季雜咏
杉の葉の垂葉のうれに莟つく春まだ寒み雪の散りくも
椶櫚の葉に降りける雪は積みおける眞木のうへなる雪にしづれぬ
木の葉掻く木の葉返しの來てあさる竹の林に梅散りしきぬ
梅の木の古枝にとまる村雀羽掻きも掻かずふくだみて居り
小垣外のわか木の栗の枝につく枯葉は落ちず梅の花散りぬ
根をとると鴨兒芹《みつば》の古葉掻き堀れば柿の木に居てうぐひすの啼く
蕷《いも》の蔓枯れてかゝれる杉垣に枝さし掩ひ梅の花白し
鬼怒川の篠の刈跡に柔かき蓬はつむも笹葉掻きよせ
淡雪のあまた降りしかば枇杷の葉の枯れてあり見ゆ木瓜のさく頃
槲《かしは》木の枯葉ながらに立つ庭に繩もてゆひし木瓜あからみぬ
枳殼の眞垣がもとの胡椒の木花ちりこぼれ春の雨ふる
春風の杉村ゆすりさわたれば雫するごと杉の花落つ
桑の木の藁まだ解かず田のくろにふとしくさける蠶豆の花
鬼怒川の堤の水蝋樹《いぼた》もえいでゝ簇々さけり黄花の薺
桑の木のうね間/\にさきつゞく薺に交る黄花の薺
さながらに青皿なべし蕗の葉に李は散りぬ夜の雨ふり
山椒の芽をたづね入る竹村にしたごもりさく木苺の花
樫の木の木ぬれ淋しく散るなべに庭の辛夷も過ぎにけるかも
木瓜の木のくれなゐうすく茂れゝば雨は日毎にふりつゞきけり
我が庭の黐の落葉に散り交るくわりむの花に雨しげくなりぬ
房州行
[#ここから6字下げ]
五月廿二日家を立つ、宿雨全く霽れる、空爽かなるにニンニン蝉のやうなる聲頻りに林中に聞ゆ、其聲必ず松の木に在るをもて人は松に居る毛虫の鳴くなりといふ
[#ここで字下げ終わり]
うらゝかに楢の若葉もおひ交る松の林に松蝉の鳴く
青芒しげれるうへに若葉洩る日のほがらかに松蝉の鳴く
莢豆《さやまめ》の花さくみちの静けきに松蝉遠く松の木に鳴く
松蝉の松の木ぬれにとよもして袷ぬぐべき日も近づきぬ
[#ここから6字下げ]
二十三日、外房航路船中
[#ここで字下げ終わり]
安房の國や長き外浦の山なみに黄ばめるものは麥にしあるらし
[#ここから6字下げ]
二十四日、清澄の八瀬尾の谷に炭燒を見に行く
[#ここで字下げ終わり]
清澄のやまぢをくれば羊齒交り胡蝶花《しやが》の花さく杉のしげふに
樟の木の落葉を踏みてくだり行く谷にもしげく胡蝶花の花さく
[#ここから6字下げ]
二十五日、清澄に來りてより毎夕必ず細く長く耳にしみて鳴く聲あり、人に聞くに蚯蚓なりといふ、世にいふ蚯蚓にもあらず、蚯蚓の鳴かぬは固よりなれど、唯之を蚯蚓の聲なりとして、打ち興ぜむに何の妨げかあらむと
[#ここで字下げ終わり]
清澄の胡蝶花の花さく草村に夕さり毎に鳴く聲や何
虎杖のおどろがしたに探れども聲鳴きやまず土ごもれかも
山桑を求むる人の谷を出でかへる夕に鳴く
前へ
次へ
全21ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング