まだき木綿波雲に見ゆる山の秀《ほ》

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信州に入る
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釜なしの蔦木の橋をさわたれば蓬がおどろ雨こぼれきぬ

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富士見村
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をすゝきの※[#「木+若」、第3水準1−85−81]《しもと》に交り穗になびく山ふところの秋蕎麥の花

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坂室の坂上よりはじめて湖水を見る
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秋の田のゆたかにめぐる諏訪のうみ霧ほがらかに山に晴れゆく

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六日、諏訪の霧が峰に登る、途上
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たていしの山こえゆけば落葉松《からまつ》の木深き溪に鵙の啼く聲

立石の淺山坂ゆかへりみる薄に飛彈の山あらはれぬ

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霧が峰
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うれしくも分けこしものか遙々に松虫草のさきつゞく山

つぶれ石あまたもまろぶたをり路の疎らの薄秋の風ふく

霧が峰は草の茂山たひら山萩刈る人の大薙に刈る

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八日、鹽尻峠を越えて桔梗が原を過ぐ
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しだり穗の粟の畑に墾りのこる桔梗が原の女郎花の花

をみなへし茂きがもとに疎らかに小松稚松おひ交り見ゆ

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九日、奈良井を發す
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曉のほのかに霧のうすれゆく落葉松山にかし鳥の鳴く

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鳥居峠
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諸樹木《もろきぎ》をひた掩ひのぼる白雲の絶間にみゆる谷の秋蕎麥

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宮の越附近
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木曾人の秋田のくろに刈る芒かり干すうへに小雨ふりきぬ

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西野川の木曾川に合するほとり道漸くたかし、崖下の杉の梢は道路の上に聳えたり
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鋒杉の茂枝がひまゆ落合の瀬に噛む水の碎くるを見つ

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須原の地に入る、河聲やゝ遠し
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男郎花まじれる草の秋雨にあまたは鳴かぬこほろぎの聲

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終日雨やまず
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木曾山はおくがは深み思はねど見ゆべき峰も隱りけるかも

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十日、夙に須原を發す
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木曾人の朝草刈らす桑畑にまだ鳴きしきるこ
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