衣も濡れて、泥にさへいたく塗れて、泣く/\にかへらひにける、おそ人とこを聞く人の、豈嗤はざれや(三十七年六月)

      短歌

萬葉は道の直道然れども心して行けおほにあらずして

萬葉は兒の手柏の二面に三面四面に八|面《おもて》に見よ

藍染の衣きる人は藍の如ひいでむとこそ心はあるらめ

筍のひでもひでずも萬葉の閾を超えて外に出でざめや

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明治三十七年一月三十一日長妹とし子一女を擧ぐ、長歌一篇を賦しておくる、篇中の地はとし子が居住に接せり、歌に曰く
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朝月の敏鎌つらなめ、馬草刈りきほふ處女の、朱の緒の笠緒の原の、したもえの春さりあへず、やすらけくあれし女の子は、垂乳根の母が乳房を、時なくと含む脣、脣のつゝめる奥に、飯粒《いひぼ》なす白齒かそけく、足手振り笑むらむさまを、家こぞり待つらむものぞ、はや大にあれ。

      反歌
小夜泣きに兒泣くすなはち垂乳根の母が乳房の凝るとかもいふ

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花崗岩といふものは譬へば石のなかの丈夫なり、筑波につづく山々はなべてこの石もて成る(三十七年六月)
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天の御影地の御影と天地の神の造りし石の名なるべし

筑波嶺ゆつゞく長山短山天の御影になりのよろしも

    夏季雜咏

     其一

さみだれの降りもふらずも天霧らひ月夜少なき夏蕎麥の花

なつそばのはなに白める五月雨の曇月夜にふくろふの啼く

干竿に洗ひかけほす白妙の衣のすそのたち葵の花

あさ霧の庭をすゞしみ落葉せる樒がもともたち掃きにけり

にほとりの足の淺舟さやらひにぬなはの花の隱《こも》りてをうく

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やまべといふうをの肉も骨も一つにやはらかなるは五月雨のふりいづるまでのことなり
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鬼怒川の堤におふる水蝋樹《いぼたのき》はなにさきけりやまべとる頃

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やまべは網してとり、鯔《ぼら》は糸垂れてとる
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忍冬の花さきひさに鬼怒川にぼら釣る人の泛けそめし見ゆ

     即事

鬼怒川の高瀬のぼり帆ふくかぜは樗の花を搖らがして吹く

     其二

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七月十一日といふより十日が程は全くくふ物を斷ちて水ばかり飲みて打ち過しけり、幼き時より胃のわづらひを癒さ
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