ろがさえにはひまどひ蕗の葉に散る忍冬の花

きその宵雨過ぎしかば棕櫚の葉に散りてたまれるしゆろの樹の花

よひに掃きてあしたさやけき庭の面にこぼれてしるき錦木の花

かはづなく水田のさきの樹群にししら/\見ゆる莢※[#「くさかんむり/二点しんにょうの「迷」、第4水準2−86−56]《がまずみ》の花

袷きる鬼怒の川邊をゆきしかばい引き持てこしみやこぐさの花

いちじろくほに抜く麥にまつはりてありなしにさく猪殃々《やへむぐら》の花

暑き日の照る日のころとすなはちにかさ指し開く人參の花

筑波嶺のみちの邂逅《ゆきあひ》にやまびとゆ聞きて知りたるやまぶきさうの花

     反古一片

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明治三十六年八月八日の夕暮に伊勢の山田につく、九日外宮より内宮に詣づ、目にふるゝ物皆たふとく覺ゆるに白丁のほのめくを見てよめる歌三首
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かしこきや神の白丁《よぼろ》は眞さやけき御裳濯川に水は汲ますも

白栲のよぼろのおりて水は汲む御裳濯川に口漱ぎけり

蘿蒸せる杉の落葉のこぼれしを白丁はひりふ宮の垣内に

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この日、鳥羽の港より船に乘りて熊野へ志す、志摩國麥崎といふをあとに見てすゝむ程に日は山のうしろに沈みぬ、このとき文※[#「魚+搖のつくり」、第4水準2−93−69]魚《とびのうお》というものゝとぶこと頻りなればよみける歌のうち三首
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大和嶺に日が隱ろへば眞藍なす浪の穗ぬれに文※[#「魚+搖のつくり」、第4水準2−93−69]魚の飛ぶ見ゆ

眞熊野のすゞしき海に飛ぶ文※[#「魚+搖のつくり」、第4水準2−93−69]魚の尾鰭張り飛び浪の穗に落つ

おもしろの文※[#「魚+搖のつくり」、第4水準2−93−69]魚かも※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]枕これの船路の思ひ出にせむ

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戯れに萬葉崇拜者に與ふる歌并短歌
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筑波嶺の裾曲の田居も、葭分になづみ漕ぎけむ、いにしへに在りけることゝ、あらずとは我は知らず、おそ人の物へい往くと、獨往かば迷ひすの、二人しては往きの礙《さは》らひ、妻の子が心盡して、籾の殼そこにしければ、踏みわたる溝のへにして、春風の吹きの拂ひに、籾の殼水に泛きしを、そこをだに超えてすゝむと、我妹子が木綿花つみて、織りにける
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