霞みたる見ゆ

筑波嶺の巖根踏みさくみ國見すと霞棚引き隔てつるかも

春霞い立ち渡らひ吾妻のやうまし國原見れど見えぬかも

筑波嶺の的面背面に見つれども霞棚引き國見しかねつ

春霞立ちかも渡る佐保姫の練の綾絹引き干せるかも

佐保姫の練綾絹のあやしかも國土ひたに覆へる見れば

うす絹と霞立ち覆ひおぼろにも國の眞秀ろの隱らく惜しも

地祇み合ひしせさす春とかも練絹覆ひ人に見えずけむ

思ほゆることの如くは練絹の霞の衣裁たまくし思ほゆ

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四月の末には京に上らむと思ひ設けしことのかなはずなりたれば心もだえてよめる歌
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青傘を八つさし開く棕櫚の木の花さく春になりにたらずや

たらの芽のほどろに春のたけ行けばいまさら/\にみやこし思ほゆ

荒小田をかへでの枝に赤芽吹き春たけぬれど一人こもり居

みやこべをこひておもへば白樫の落葉掃きつゝありがてなくに

おもふこと更にも成らず枇杷の樹の落葉の春に逢はくさびしも

春畑の桑に霜ふりさ芽立ちのまだきは立たずためらふ吾は

草枕旅にも行かず木犀の芽立つ春日は空しけまくも

にこ毛立つさし穗の麥の招くがね
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