壯丁はも妹に別れて。うき雲のさ迷ひ行けば。たまり水止まるものも。ありへにし家にも居かねて。煙だに下へ咽べば。世の中にまさしき人の。同胞の嘆くを見れば。いかで君仇にはあらめやと。益荒雄の鋭心起し。家忘れ身もたな知らず。國統ぶる司の門に。つばらかに聞えあぐれど。大君の任のまに/\。きくといふ司人やも。正耳はしひにけらしも。もゝ足らず八十たび申せど。かへり見ることもあらねば。飯に飢て恨み泣けども。すべもあらぬかも。

    反歌

いかならむ年の日にかも毛の國の民の嘆きの止む時あらむ

    ひしこ漬

足妣木の山を近みと。木がくりに家居しせれば。世のことしけ疎くあれど。雁がねの刈田さわたり。秋風の寒けき頃の。てる月の明き夜頃は。鰯引く浦にぎはふと。辟竹の籃にみてなめ。こゝまでにひしこも來れ。鶉鳴く畑のしげふの。しだり穗の粟とり交へ。八鹽折の酢につけまくと。京さびこゝに吾せる。珍らしみとぞ。

秋風の寒く吹くなべ竹籃にひしこ持ちて來とほき濱びゆ

    髪

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十月の末母の命によりて成田山にまうで毛綱を見て作れる歌并短歌
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母刀自の依しの
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