年もことしも。汐さゐのありその上に。い立たせることもあらねば。玉松のしげきが下に。もとのごと家はあれども。さぶしきろかも。
畏きや神のみ埼にうつせ貝むなしき家を見ればさぶしも
蚯蚓鳴く
あらがねの土の下にて。己が世の住みかもとむと。たまさかに凝りてむすべば。さ百合はなそこに開くと。古ゆ今に言ひつぎ。世の中に怪しきものと。尻のへもかしらも分かず。はひもとほり生ける蚯蚓の。竹|※[#「竹かんむり/瞿/又」、第4水準2−83−82]を手にくる糸の。ほそぼそに鳴くなるよひの。うみ苧なす長き夜すらは。いねがてに常する吾も。やすいするかも。
鑛毒
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鑛毒地被害民の惨状を詠ずる歌一首並反歌
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下つ毛の足尾の山は。まがつみのうしはく山か。その山に金堀るなべに。かなけ水谷に漲り。をちこちの落合ふ川の。大舟のわたらせ川に。時分かず流れ注げば。その川の霑す極み。荒金の土浸みとほり。八ツ子持つ芋も子持たず。蠶飼ふ桑も芽ぐまず。水田には蘆生ひしげり。くが田には萱し靡けば。安らけく住み來し民も。過ぎへなむたどきを知らに。父母は阿子に離れて。
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