じ》ひよどりや、ひたきも取れてあらむと、こはや足をはさまれて、はさまれて居る鼠や、をばやし小溝の鼠、みづ田くが田の鼠は、みしねくひ麥くふ、きやう鼠はつか鼠、いへるなる鼠は戸も柱もくひやぶれど、ひるは梁にかくる、大宮の老鼠、わなにもかゝらずて、よるはかくれてひるいづる、老鼠や、

      その十
いなだきをなからに剃り、そりいなみいたも泣く子や、洟ひるや木でのごはむや、竹で拭はむや、さら/\に利鎌に刈りて、萱でのごはむ、

    新年宴會

利鎌もて刈りゆふ注連のとしのはにいやつぎ行かむ今日の宴は

    雪

筑波嶺の茅生のかや原さら/\にこゝには散らず降れる雪かも

二並の山の峽間に降りしける雪がおもしろはだらなれども

筑波嶺に降りける雪は白駒の額毛に似たり消えずもあらぬか

    寄鑄物師秀眞

小鼠は栗も乾※[#「魚+是」、第4水準2−93−60]も引くといへどさぬるふすまも引くらむや否

うつばりのたはれ鼠が栲繩のひきて行くちふひとりさぬれば

橿の實のひとりぬればに鼠だに引くとさはいふひとりはないね

嫁が君としかもよべども木枕をなめてさねなむ鼠ならめやも

いとこやの妹とさねてば嫁が君ひくといはじもの妹とさねてば

嫁が君よりてもこじを妹がかた鑄てもさねなゝ冷たかりとも

みかの瓮に鼠おとしもおとさずも妹とさねてば引くといはなくに

小鼠のひくといふものぞ犢牛の角のふくれはつゝましみこそ

    海苔

品川のいり江をわたる春雨に海苔干す垣に梅のちる見ゆ

    贈答歌

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壬寅の秋、歌の上に聊か所見を異にし、左千夫とあげつらひせる頃、左千夫におくれる歌
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みづ/″\し、粟の垂穗の、しだり穗を、切るや小畠の、生ひ杉菜、根の深けく、おもほゆる、心もあらねど、吾はもや、相爭ひき、しかれども、棕櫚の、毛をよる、繩のはし、さかり居りとも、またあはざめや。

山菅のそがひに向かば劔太刀身はへだてねど言は遠けむ

    春雨

ほろ/\と落葉こぼるゝゆずり葉の赤き木ぬれに春雨ぞふる

春の夜の枕のともし消しもあへずうつら/\にいねてきく雨

春雨の露おきむすぶ梅の木に日のさすほどの面白き朝

あふぎ見る眉毛にかゝる春雨にかさゝしわたる月人をとこ

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常陸國下妻に古刹あり光明寺といふ、門外に一株の菩提樹あり、傳へいふ宗祖親鸞の手植せし所と、蓋し稀に見る所の老木なり、院主余に徴するに菩提樹の歌を以てす、乃ち作れる歌七首
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天竺の國にありといふ菩提樹ををつゝに見れば佛念ほゆ

善き人のその掌にうけのまば甘くぞあらむ菩提樹の露

世の中をあらみこちたみ嘆く人にふりかゝるらむ菩提樹の華

菩提樹のむくさく華の香を嗅げば頑固人もなごむべらなり

菩提樹の小枝が諸葉のさや/\に鳴るをし聞かば罪も消ぬべし

こゝにして見るが珍しき菩提樹の木根立ち古りぬ幾代へぬらむ

うつそみの人のためにと菩提樹をこゝに植ゑけむ人のたふとき

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一月二十日、きのふより夜へかけて降りつゞきたる雨のやみたるにつとめておき出でゝ見れば筑波の山には初雪のふりかゝりたればよめる歌六首(録三首)
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おぼゝしく曇れるそらの雨やみて筑波の山に雪ふれり見ゆ

よもすがら雨の寒けくふりしかば嶺の上には雪ぞふりける

をのうへにはだらに降れる雪なればこゝのあたりはうべ降らずけり

    つくし

むかし我がしば/\過ぎし大形の小松が下はつくしもえけり

つく/\しもえももえずも大形の小松が下に行きてかも見む

つくしつむ方も知らえず大形に行きてを見なむ昔見しかば

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二月五日筑波山に登る、ふりおける雪ふかゝりければ足の疲れはなはだしくおぼえぬ、その夜のほどによみける歌九首
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足曳の山をわたるに惱ましみい行かじものを山がおもしろ

柞葉のはゝそのしばのしば/\も立ちは休らふ山の八十坂

蘖《ひこばえ》のたぐひて行かむ人なしにひとり越ゆれば惱ましき坂

さや/\に利鎌さしふるしもと木のなよ/\しもよ山路越ゆれば

草枕旅ゆきなれし吾なれど山坂越せばいたし足うらは

つくば嶺にこりたく※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》のもゆるなす思ひかねつゝ足はなやみぬ

肉むらの引かゆがごとも思ほえて脛のふくれのいたましき宵

桑の木の木ぬれをはかる青蟲のかゞめて居ればいたき足かも

小衾のなごやが下にさぬらくのすが/\しもよ足疲れゝば

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三月十四日、妹とし子あすは嫁がむといふに、夕より雨のいたくふりいでたれば
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さきはひのよし
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