弓矢は細矢にて(同)

かしこきやすめらみことにありながらありとふ妹が家も知らなく(小督)

かしこきやすめらみことにありながら朝な夕なに妹を戀ふらく(同)

人の臣のかしこきかもよ人の君を板屋の中にこめたてまつる(法皇幽屏)

君故にさかえし我よわがために衰へたりし君をかなしむ(佛)

    六月第二會

     神

木の實はみ木の根とりくひいきながら空に昇りて神とならんかも

こち村とさき村のあはひしみたてる森に祭れるうぶすなの神

   報東々幾數

時鳥竹やぶ多き里過ぎて麥のはたけの月に鳴くなり

    七月短歌會

日の本のますらたけをのをたけびに仇の砦は逃げて人もなし

躬恒等の歌をよろこぶ歌人は蛙となりて土にはらばへ

    七月第二會

     盂蘭盆會

み佛にさゝげまつりし蓮の葉も瓜も茄子も川に流しぬ

    納涼

蓮の葉にわたる夕風すゞしけば池のほとりに人つどひけり

河近み河風家に吹き入りて蚊遣の煙かたなびきすも

川風の吹きのまに/\羅の妹が衣の裾ひるがへる

彼方の森に入日の光きえ涼しき風の川下ゆ吹く

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六月廿日再び左千夫氏と四ツ木の吉野園に遊びて
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尖葉の菖蒲のくさの花さきて白にむらさきに園にぎはしも

四つ柱土にうづめて藁ふきてあやめの園にあづまやを建つ

梅の木の青葉のもとに雲なしてさける菖蒲にひろき園かも

廣園のあやめの花のはなびらのひとつ/\に風ふきわたる

菖蒲草その花びらのむらさきを衣にし摺りて妹に着せばや

大きなる菖蒲のつぼみ花になりて萎みし花の上をおほひぬ

はなびらのうすむらさきに紫の千|筋《いき》百いきいきあるあやめ

菖蒲草しぼり隈どり品はあれど白とむらさきと二つを喜ぶ

あやめ咲く園の細道いくめぐり池をめぐりて亭にいこひつ

三つひらの菖蒲の中に六つひらの菖蒲の花のともしきろ鴨

むらさきの菖蒲の花は黒くして白きあやめの目にたつ夕べ

藁ぶきの四阿すでに灯ともして園のあやめはたゞ白く見ゆ

菖蒲さく園を訪ひ來て其園に水鷄巣くひしはなしを聞きぬ

ぬば玉の夜のあやめのうね/\は白木綿布をしけるが如し

ともし火を釣りたる園の四阿のまはりに白きあやめ草かも

白妙のあやめの上をとぶほたるうすき光をはなちて去りぬ

たま/\に出でし螢をめづらしみ取らんとすれば其光きえぬ

    星

國原はやみの夜空におほはれて星あきらかに天の川流る

山かげの桃の林に星落ちてくはし少女は生れけむかも

ぬば玉の闇の夜空に尾をひきて遠津海原ほしとびわたる

    瀧

うちわたす二つの瀧の下つせの落合の瀬は木深み見えず

二荒のふもとをゆけば野のきはみ山あひにして瀧かゝるみゆ

二荒の山のつゞきの山もとにたぎつ七たき七つなみおつ

あしひきの山の夕立風あれて瀧のとゞろの音もきこえず

杉の木のしみたつ山の山おくの雲わくところたきおちとよむ

    星

久方のみ空を雲のゆきかひに見えみ見えずみ星うつる水

    或日人の家にて朝顏を見てよめる

松をうゑ茄子をつくるかたはらに朝顔はひて垣にからめり

朝顔と葡萄の棚とあひならび葡萄の蔓に朝顔からむ

もとあらの棚に這はせし朝顔のいや長蔓のしげりはびこる

この庭の朝顔きりてつなげらばさき村ゆきて木にからむべし

棚にしてからむ朝顔その蔓のたれしところに莟ふくれつ

    萩

萩の花ぬける白玉ともしけど露にしあればとりがてにすも

ひまあらの垣にしげれる白萩のしら/\見えて夕月のぼる

萩の上に雀とまりて枝ゆれて花はら/\と石にこぼるゝ

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雲の上のよろこびごときのふとのみおもひはべりしにはや御着帶の事きこえはべれば
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むらさきの花をつくりていはひてし月の六かはり秋ふけわたる

神ながら契らす秋の長秋をみこのきさいに玉こもります

すめろぎのみすゑさかゆく大みよに天なる神は玉くだします

こもらせる玉をたふとみやすらかにあらせたまへといのりたてまつる

をにませば日のすゑとほぎめにませば月のすゑとほぐ玉にいますはや

天なるや神のくだせるうづの玉をことほぎまつることのかしこさ

かゞなべて五つのおよび二をりの十かはり月日さきくといのる

こもらせる玉をかしこと山川の清き河内に宮居せすかも

かしこきや玉くだらせる國原にかゞよふ雲の八重たちのぼる

國原に玉くだらせるしるしありてとよの長秋ながくやすらかに

天にまし國にいませるもろ/\の神のまもらす玉のたふとさ

    鬼

窓の外にうかゞふ鬼の隱るゝとかしら隱して角を隱さず

なにをかもいたく恐れか赤鬼のおもてか青にうちふるひ居り

    戯詠鬼歌

葱のぬたを好む
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