日、橿原の宮に詣づ
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葦原や八百湧きのぼる滿潮の高知りいます神の大宮
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やしろの庭のかたほとりに、かたばかりなる葦原あり、そこに水汲む井のありければよめる
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橿原の神の宮居の齋庭には葦ぞおひたる御井の眞清水
橿原の宮のはふりは葦分に御井は汲むらむ神のまに/\
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橘寺より飛鳥へ行くみちのかたへに逝囘の丘といふにのぼりて
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たびゝとの逝囘《ゆきき》の丘の小畠には煙草の花はさきにけるかも
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八日、大阪より伊勢へこえむと木津川のほとりを過ぎて
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やま桑の木津のはや瀬ののぼり舟つな手かけ曳く帆はあげたれど
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伊勢路にいりてよめる
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日をへつつ伊勢の宮路に粟の穗の垂れたる見れば秋にしあるらし
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九日、志摩の國より熊野へわたる船にのりてよめる
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加布良古の三崎の小門をすぎくれば志摩の浦囘に浪立ち騒ぐ
麥崎のあられ松原そがひみにきの國やまに船はへむかふ
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十日、よべ一夜は船にねて、ひる近きに勝浦といふところへつく、船のなかより那智の瀧をみる、かくばかりなる瀧の海よりみゆる、よそにはたぐひもなかるべし
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三輪崎の輪崎をすぎてたちむかふ那智の檜山の瀧の白木綿
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那智の山をわけて瀧の上にいたりみるに谷ふかくして、はろかに熊野の海をのぞむ
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丹敷戸畔丹敷の浦はいさなとる船も泛ばず浪のよる見ゆ
谷ふかみもろ木はあれど杉がうれを眞下に見れば畏きろかも
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やどりの庭よりは谷を隔てゝまのあたりに瀧のみゆるに、月の冴えたる夜なりければふくるまでいも寢ずてよみける
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眞熊野の熊野の浦ゆてる月のひかり滿ち渡る那智の瀧山
みれど飽かぬ那智の瀧山ゆきめぐり月夜にみたり惜しけくもあらず
眞熊野や那智の垂水の白木綿のいや白木綿と月照り渡る
ひとみなの見まくの欲れる那智山の瀧見るがへに月にあへるかも
このみゆる那智の山邊にいほるとも月の照る夜はつねにあらめやも
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