ころ

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二十六日、四天王寺の塔に上る
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刻楷《きざはし》を足讀み片讀みのぼり行く足うらのしもゆ風吹ききたる

押照る難波の海ゆふきおくる風の涼しきこの塔の上

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二十七日、泉布觀後庭
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あふちの枝も動かず暑き日の庭にこぼるゝ白萩の花

油蝉しきなく庭のあをしばに散りこぼれたる白萩の花

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二十八日、安倍野を過ぐ
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うねなみに藍刈り干せる津の國の安倍野を行けば暑しこの日は

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和泉國に陵を拜がむと舳の松といふところを行くに、芒のさわ/\と靡きたるを見てよめる
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大ふねの舳の松の野の穗芒は陵のへに靡びきあへるかも

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百舌鳥の耳原の中の陵といふを拜みて
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和泉は百舌鳥の耳原耳原の陵のうへにしげる杉の木

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すこし隔たりたるみなみの陵といふを拜みまつるに、松の木のおひしげりたれば
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うなねつき額づきみればひた丘の木の下萱のさやけくもあるか

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おなじく北の陵へまかる途にて
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向井野の稗は穗に出づ草枕旅の日ごろのいや暑けきに

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北の陵にて
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物部の建つる楯井の陵にまつると作れその菽も稗も

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舳の松より海原をうちわたす雲の立ちければ
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雨ないたくもちてなよせそ茅淳《ちぬ》の海や淡路の島に立てる白雲

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住吉の松林を磯の方にうちいでゝよめる
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住吉の磯こす波の夕※[#「さんずい+和」、第4水準2−78−64]の鷺とびわたれ村松がうれゆ

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三十日、西京なる東山のあたりを行くとて清閑寺の陵にいたるみちすがらよみける
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さびしらに蝉鳴く山の小坂には松葉ぞ散れるその青松葉

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三十一日、比叡山のいたゞきにのぼりて湖のあなたに田上山を望むに、折柄山のうへなる空に雲のむら/\とうかび居たれば
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比叡の嶺ゆ振放みれば近
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