ふ、門外に一株の菩提樹あり、傳へいふ宗祖親鸞の手植せし所と、蓋し稀に見る所の老木なり、院主余に徴するに菩提樹の歌を以てす、乃ち作れる歌七首
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天竺の國にありといふ菩提樹ををつゝに見れば佛念ほゆ
善き人のその掌にうけのまば甘くぞあらむ菩提樹の露
世の中をあらみこちたみ嘆く人にふりかゝるらむ菩提樹の華
菩提樹のむくさく華の香を嗅げば頑固人もなごむべらなり
菩提樹の小枝が諸葉のさや/\に鳴るをし聞かば罪も消ぬべし
こゝにして見るが珍しき菩提樹の木根立ち古りぬ幾代へぬらむ
うつそみの人のためにと菩提樹をこゝに植ゑけむ人のたふとき
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一月二十日、きのふより夜へかけて降りつゞきたる雨のやみたるにつとめておき出でゝ見れば筑波の山には初雪のふりかゝりたればよめる歌六首(録三首)
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おぼゝしく曇れるそらの雨やみて筑波の山に雪ふれり見ゆ
よもすがら雨の寒けくふりしかば嶺の上には雪ぞふりける
をのうへにはだらに降れる雪なればこゝのあたりはうべ降らずけり
つくし
むかし我がしば/\過ぎし大形の小松が下はつくしもえけり
つく/\しもえももえずも大形の小松が下に行きてかも見む
つくしつむ方も知らえず大形に行きてを見なむ昔見しかば
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二月五日筑波山に登る、ふりおける雪ふかゝりければ足の疲れはなはだしくおぼえぬ、その夜のほどによみける歌九首
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足曳の山をわたるに惱ましみい行かじものを山がおもしろ
柞葉のはゝそのしばのしば/\も立ちは休らふ山の八十坂
蘖《ひこばえ》のたぐひて行かむ人なしにひとり越ゆれば惱ましき坂
さや/\に利鎌さしふるしもと木のなよ/\しもよ山路越ゆれば
草枕旅ゆきなれし吾なれど山坂越せばいたし足うらは
つくば嶺にこりたく※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》のもゆるなす思ひかねつゝ足はなやみぬ
肉むらの引かゆがごとも思ほえて脛のふくれのいたましき宵
桑の木の木ぬれをはかる青蟲のかゞめて居ればいたき足かも
小衾のなごやが下にさぬらくのすが/\しもよ足疲れゝば
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三月十四日、妹とし子あすは嫁がむといふに、夕より雨のいたくふりいでたれば
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さきはひのよし
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