竹の皮へ包んで渡す。竹の皮から水がぽた/\と垂れる。柘植氏は家へ戻つてそれを更に冷たい水へひたした。それは佳味かつたのみならず非常に涼しい感じのいゝものであつた。柘植氏は大垣の水が自慢なのである。それから更に養老の水を見せやうといふので、草鞋穿で連立つた。田甫を過ぎて遙かに養老の山を望んで行く。到る所の村々に清冽な水が吹き出して居る。山の麓へつくとそこには櫟の林があつて道はだん/\勾配がついて來る。其なだらかな坂がどこまでも箒で掃いたやうな趾がついて居る。どうした趾だらうかと思ひながら行くと麁朶を積んだ荷車が來る。梶棒をあげて荷車の後を地へつけて徐にくだる。麁朶の先がずる/\と道を引きずつて車輪を急劇に廻轉するのをゆるめる。箒目のやうな趾はこれだとわかつた。山へかゝつてから右手遙かに小さな瀧が見える。養老はあんなものではないあれは秣が瀧といふのだと柘植氏は語る。養老の地へつくとそこは公園である。あたりには料理屋なども建てられてあるが一帶にさびしく櫻の木だけは葉があかくなつてはら/\と芝生に散るのもある。白い花の芙蓉が其木蔭にさいて居る。それから常磐木の木立へはひるとざあ/\と落ち來る水
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