あつた。時間表を見ると四日市行はまだ大分時刻がある。余は笠と蓆を取つて腰掛へ立て掛けて桐油はそつと其上に乘せた。笠からも蓆からも流れ出る水がタヽキの上に太い線を描いて其先が少し曲り/\勢よく先へ行く。余はそこでゆつくり柿をくふ積で荷物をおろして腰を掛けた。さうしたら臀が非常に冷たいのに氣がついた。能く見ると先刻から草鞋の切れたのを取りかへずに來たので踵から泥を跳ねあげてヅボン下は臀のあたりまでぐつしりと泥水へひたしたやうになつて居たのであつた。桐油を見たら桐油も泥だらけであつた。
三
大垣は清冽な水の湧く處である。穴を穿てばどこからでも沸々として其清冽な水が湧いて出るといふのである。柘植氏のもとを訪ねたのは祭の提灯が飾つてある日であつた。柘植氏は余を案内してあるきながら或角の菓子屋の店へはいつた。店先には湧いて出る水をタタキで圍つてある。主人は其水へ手を入れて底に沈んで居る團栗の實よりも少し大きな位な茶碗の形の燒物を抄ひあげる。其茶碗を倒にして持つた手を左の手の平へぽんと叩きつけると中から白い葛饅頭が出るのであつた。主人は茶碗をすくひあげてはぽん/\と拔てそれを
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