くも秋寂びて居る。余はそれから四日市へ行きたいので宮守の家に就いて聞いた。障子の内から女の聲がしてそれは汽車に乘るがいゝといつてあらましを教へてくれた。余は能褒野を立つて高宮の停車場へ出る。其間もさびれた土地であつた。其さびれた村々には※[#「柿」の正字、第3水準1−85−57]の木の葉が赤くなつて梢疎らについて居る。※[#「柿」の正字、第3水準1−85−57]の木蔭には赤い表をあらはしたり白いうらをあらはしたりして散り重つて居る落葉が雨に打たれて居る。さうして其梢には何處のを見ても柿は一つもついて居らぬ。余は窃に柿が欲しくなつた。或る茶店に小さな※[#「柿」の正字、第3水準1−85−57]のあつたのを見たから懷へはひるだけ買つた。それを歩きながらでもたべようと思つたのだ。然し今朝出掛に雨があまり酷いので蓆一枚では迚ても凌げないと思つたから更に桐油を一枚求めてそれを後へ掛けて蓆は胸へ當てゝ歩いて居たのであるから手を出すのが億刧である。それから柿を懷にした儘急いだ。草鞋の底が切れかけたけれど穿きかへるのが面倒だから此も構はずにしと/\と急いで行く。停車場は恐ろしいみすぼらしい小さな建物で
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