一階二階と數へて見るのに植ゑてからまだ幾年もたゝぬことがわかる。それでも木立の間は薄闇い。白い花崗石の玉垣と地上に敷いた白砂と玉垣の前にある一本の樹のはしばみのやうな葉の黄ばんだのとはあたりを明るくして居る。秋の雨はしと/\と止まず注いで居る。はしばみのやうな黄ばんだ葉が少し白い砂の上に散つて雨に打たれて居る。余は木立を後にして蓼の穗の垂れてる道をもどる。そこから大和の山々が見える筈だと思つて見ると雨は四方を閉ざして居るのである。民家のある處を過ぎて行くと山陵から餘り遠くなく能褒野の神社がある。神社というてもそれは見るかげもない小さなもので極めて小さな鳥居が建てゝある。あたりは低い松が疎らに立つて居て、そこら一杯に生えて居る末枯草は點頭くやうに葉先を微かに動かしながら雨に打たれて居る。鳥居の前には有繋に宮守の家らしい建物がある。わびしげな住居で障子にも破れが見える。しぶきに濕る縁側には芋殼を積んでそれへ筵を掛けてある。余は白鳥が翼を擴げて蒼空を遠く翅るのを悠長な宮人が蹶きながら追ひ歩いたといふ故事を心に浮べながらあたりを見る。土地のさまはどうしても以前の能褒野を其儘現在に見るやうでいた
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