土橋が架つて居る。土手へ出ればすぐに山陵が見えるといつた。土手へのぼると百姓のいつたやうに長い橋があつて其先には一村の民家が見えてこんもりとした小さな木立が其側に繁つて居る。木立の後は畑で蕎麥の花が一杯に白くさき滿ちて見える。百姓は此の川に架つて居るのは土橋であるといつたがこんな長い土橋があらう筈がない。百姓もいゝ加減なことをいつたものだと思ひつゝ橋を渡りかけるとそれは實際土が載せてある。それにしても此程の川に土橋でしかもそれが隨分年月を經て居るやうに見えるのは水が嘗て破壞せしめる程には激したことがないからだらうと思はれる。橋を越して一寸左へ曲つて行けばすぐ小さな木立になる。果してそれは能褒野の山陵であつた。鈴鹿川に※[#「くさかんむり/(さんずい+位)」、第3水準1−91−13]んで居るのである。それが實際はあたりの民家に隅へおしつけられたやうな形である。畝傍の山陵でさへ以前は百姓が草を刈つたり牛を繋いたりしてそこらは牛の糞だらけであつた抔といふことを思ひ浮べながら木立へはひる。木立は松の木で後の畑の蕎麥の花も透いては見えぬまでにぎつしり繁茂して居る。松は皆太からぬ幹で其幹の枝の趾を
前へ 次へ
全12ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング