載せて
「はいお婆さん下げておくんなさいよ」
 馬車は又砂利を軋りはじめた。棒のやうに眞直な街道の兩側には桐の枯木が暫く續いて其下にはぽつ/\立つてる枯菊が切な相にゆらついて居る。處々の畑には白い絲のやうな桑の木が立つて居る。桑の木のうらには小鳥でも止まつた樣に落ち殘つた枯葉が一二枚宛しがみついて居るのがある。強い西風は其枯葉を吹き散らさねば止むまいと烈しくゆさぶつて居る。遠くの林は空に吹き立つた埃のためにぼんやりとして居る。馬車は其埃の中を黒い大きな塊の如く動いて行く。此間彼は無言でさうして店のことや老いた父母のことのみ考へつゝあつた。女の卷煙草の灰が彼の顏のあたりへ吹き掛つたので彼は急に我に返つて眉を顰めた。
「まあ本當に不調法しました」
 女は氣がついていきなり吸ひかけの煙草を棄てた。煙草は道の端へさうして畑の方へ吹き擢はれつゝ微かに煙を立てる。馬車は其煙に遠ざかつてずん/\と走つて行く。
「まあ御覽なさい」
 女は懷から新聞紙を出して彼の荷物の上へ置いた。
「私にはこんなことは信じられませんね」
又かういつて出した新聞紙の一部を開いて見せる。不老不死と標題した賣藥の廣告の處であ
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