の外へ落ちた。
「あらまあ、どうするんだらう」
 顏には左程の驚もなく然かも聲高に不遠慮にいつた。こんな時は馬丁がすぐに飛び降りる筈であるが横着な馭者は此日馬丁を伴はなかつた。白い襟卷をした彼は
「馬車屋さん少し待つておくんなさい」
 ゆつたりと底力のある聲で馬車を留めさせた。さうして馬車から降りて其荷物をとつてやつた。女は有繋に頭巾へ一寸手を掛けて頭をさげた。さうして荷物の埃を叩いた。
「土産物でせうが壞れやしませんかね」
「何なら落した序に少し毒見しませうかね」
 先刻から女の反對の側に居て其容子ばかり見て居た三人連の電信工夫が斯う揶揄ひ出した。
「おやまあそれには及びませんよ、誰かにたんと持つて行つてあげたらようござんせうよ」
 女は濟したものである。客と客との膝はぎつしりと押しつけてあるので幾らかならず痛い。
「こりや酷いや松葉つなぎでもいゝね、姉さんとなら此上なしだが」
 工夫の一人がいつた。
「そんだがぎつしり成つてつと暖ツたかでがんすがね」
 五十格恰の手拭で頬冠をした百姓らしいのがいつた。
「それに旦那たんと乘ると車臺ががたつかねえでようがすぜ、なんちつても此の街道もま
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