があつた、それは蠶種であるが、一旦卵を洗ひ落して更にアラビヤゴムかなにかですつかりくつけたのである、しかしありうべからざるものであるといふことにして審査しなかつた、なんでも二十八蛾の框製で三十人手間もかゝるといふことである、
 茨城縣のものはそんなところは正直のやうだ、隨て褒賞などは貰はれない、褒賞が貰はれないので出品するものが非常に少ないといふやうなわけだ、
 こんなに暖くては晩霜の恐はあるまいかといふやうな話がいろ/\あつた、
 午後三時叔父歸る、
 皆葉の金兵衛の家の老婆妹に遇ひに來る、嘗て妹が里子に行つて居た家の老婆である、死ぬまでもう遇はれないだらうなと[#「なと」に「ママ」の注記]ゞ繰り返していふのである、八十になるけれど耳はたしかだといふことだ、仕度物を引き出して見せたらなんでも驚いて居た、夕方かへる、飯はくはない/\といつて食つて行つた、
 隣村では豆人形の寄せ太皷[#「太皷」に「ママ」の注記]が鳴る、
 聞けば分家の鷄けふ賣つてしまつたといふことである、
 夜はやく眠くなつた、次で頭が痛くなつた、一日机によりかゝつた精[#「精」に「ママ」の注記]である、
 日記をかいて居ると茶の間では無駄話し、
 神戸へ行つた時、チャン/\の小供が芋を噛ぢつて居たから手を出したらアカンべーをしたつけなどゝ清兵衛がいつて居る、
 鷄また宵時をつくる、牛乳二合、

 六日、金曜、曇、陰鬱なる空から折々日光を見る、風吹いて寒し、
 小便酒臭し、これは寢しなに睡眠剤として少しやつたからである、下戸といふものは恐ろしいものである、冷水浴いつもの如し、
 けふ舊※[#「暦」の「木」に代えて「禾」、第3水準1−85−39]の二月八日、屋根へ目籠を立てる、一つの目の鬼が夜になると家内を覗ひに來るのであるが、目籠さへ立てゝ置けばその目の夥しいので怖れて逃げてしまふので人間が無事で濟むのだといふ言ひ傳になつて居る、それでその鬼が何のために來るのかどうかちつとも解らない、かういふこともいふ、この日福の神樣が世間へ稼ぎに出て十二月の八日に歸つて來るのである、これも何のことかちつとも解らない、
 左千夫よりはがき、自分がいつてやつた調子論大體同感、機關雜誌に就ての意見尤もの點が多いとある、
 庭の松葉を取拂ふ、男一人、女二人、松葉の土に付いた所は腐りかゝつて居る、
 椚眞木の調べに北原へ行
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