かと聞いて見たら、去年の春この二人がお針をして居るうちに近村の祭へ行きたくなつて、お白粉をべた/\となすつておふくが妹の羽織を借りて行つた所が途中で土掘りをして居た若い衆が借着をして來たといつては笑つて踊つたり跳ねたりしたことがあつたといふのをおせいが考へ出しては堪らなくなつて笑ふのである、おふくがひとりで默つてゐる、
 表では垣根を結ふのでがら/\音がする、そこへ立ち淀んで話をして居るものがあるので出て行つて見ると、卵屋が荷を卸して居るので、一寸天秤を擔いて[#「て」に「ママ」の注記]見た、荷がふら/\するので腰を屈めなくては歩行かれない、針仕事の一座が可笑しいと言つて大笑をした、
 おせいが話のうちに私は坐つて居ると膝かぶらが痛くなるのが好きでといふたとかで大笑ひをした、
 夜、茶の間で婦女新聞の小[#「小」に「ママ」の注記]供の話をすると、おきよさんが、縁者の家の小供が同じ縁者の家へ行つて六十以上のお婆アさんにお婆アさんは男か女かと聞いたので男だよといつたら、男なら眼鏡を見せろといつたと話をする、
 近所の清兵衛老爺、また落ちて來ましたといつて來た、毎晩來る老爺である、
 欣人へ手紙したたむ、麓へ春雨五首をおくる、
 墨を磨らうとしたらば、墨がぽつりと中から折れて指の尖が少しよごれた、
 門の茶の木の下に韮二寸ばかり延び出す、
 枯芝に青味を帶ぶ、
 燒卵、生卵、菜汁、海苔、牛乳、

 五日、木曜、晴、はなはだ暖し、
 朝の内に椚眞木の受取渡しをして來いと母から命ぜられたが用があるからと云つて行かぬ、
 正午に近く高野の叔父來る、茨城縣では比肩すべきものゝ[#「ゝ」に「ママ」の注記]蠶業家である、奥州、四國、九州から傳習生が毎年來るといふことである、雜談、
 共進會や博覽會などは農業に左程利益のあるものではない、
 繭などの出品であつても一ケ所で精養したものを讓り受けて出品するものがいくらもある、
 その方法は飼手が出品するだけを選擇して、その跡を更に選擇したものが一升いくら、その次がいくら、その次がいくらといふ賣買で成立つて居る、信州あたりではこれが非常におほい、
 米や大豆であつても陰干にしたものを一粒つゝ指で剥いて決してすり臼にかけるやうなことはしない、
 しかし近來出品の量を増されためその弊が少なくなつた、
 八王子の共進會で自分等審査した時もひどいの
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