、つく/″\と佗しさを感じながら其派手な模樣を見詰めて居た。下女が慌しく階子段を昇つて來た。西陣の河井さんから電話で只今伺ひますからといつて來たといつた。此の下女といふのは近在からでも傭はれて居ると見えて、田舍臭い一寸聞きとれぬことをいふ女である。余のいふことも解り憎い所があるとかいうて、自分も解らぬことをいうて能く吹き出した。罪はないが快い女ではなかつた。余は直ぐに夜具を片付けさせた。暫くたつて下女はガラスの皿につまらぬ菓子を持つて來た。さうして此邊には何處にも碌な菓子は無いのだといつて又失笑する。河井さんが來た。河井さんは自分の宅へ連れて行くから此處は直ぐに立てといつた。余は突然なのに驚いた。然し再三の勸誘に、余は其好意に從ふことにした。さうして勘定書を命じた。河井さんは今度ふとしたことで知己に成つた人である。階子段を靜かに昇つて來たのは意外にも春さんといふ女であつた。春さんは直ぐに立つといふのを聞いて、意外な顏をして去つた。さうして暫くして勘定書を持つて來た。春さんは時々帳場に坐つて居るのを見ることがある。宿の縁者であると下女から聞いて居る。十八位な可憐の少女である。余が奈良の地
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