際つゝましげに見える。空はだん/\低くなつて南風は愈吹募つた。白いホヤを抱かうとする柳の枝が寸時も止まず亂れて居る間に前後十三人の太夫が過ぎた。十三人の次に現はれたのが最後の太夫である。刷物には小太夫と書いてある。此は禿が八人で、八人が皆背に小太夫のしるしをした小判形を垂れて居る。小太夫の髮は獨り異つて後に長く垂れてある。藍色の切で中央を卷いて、赤い裏の厚紙で熨斗形に二個所まで包まれてある。驚く程大きな鼈甲の櫛が只一つ載せてある。此の髮は慥にすべての太夫を壓倒して十分である。帶も裲襠も眩きばかりの錦襴である。五枚の襲ねた衣物の裾が段々に※[#「衣へん+施のつくり」、第3水準1−91−72]を見せて吊り上げられてある。五枚の※[#「衣へん+施のつくり」、第3水準1−91−72]が五色である。五色の※[#「衣へん+施のつくり」、第3水準1−91−72]には更に裲襠の※[#「衣へん+施のつくり」、第3水準1−91−72]が襲ねてある。彼は容貌も態度も他の十三人を壓して見えた。見物人の視線は一齊に小太夫に從つて移つて行く。小太夫が過ぎると後から見物人が船の後を追ふ波の如く道を埋めた。座敷の人々
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