れさせる位の高さに閾があつてそこには勾欄が造られてある。余の側に居た二人の男が惜いことに此所では太夫の足が見えないといふ樣なことをいつて居る。どこかの商店の手代らしい男である。余は立膝をして覗いて見たが成程往來の土は見えない。往來の向側は板塀で青竹の埒が造られてある。そこにも見物人が立つて居る。塀からすつくり立つたアーク燈の丸いホヤが白く冷た相に見える。昨夜見たのである。其傍に柳は南風を受けてふわり/\と枝が亂れて居る。南風は漸く柳の枝に吹き募つて來る。埃が立ちはじめた。埒の内には人が殖えて來た。座敷の客も殆んど一杯に成つた。後から強い力を以て壓されるので後を見ると人々が皆立つて居る。室内はだん/\騷々敷なつて來た。余の前には幼兒を抱いた一人の女が居た。幼兒は人々の騷々しさにおびえたと見えて火の付いた樣に泣き出した。女は恐ろしく心配さうな顏をしてやつとのこと後へ出て行つた。余は其空席へ進んだ。漸く往來の土が見えるやうに成つた。後から壓す力が強く成るので前の客も立たねばならなくなつた。立つては復た坐る。其度に余は段々前へ進んだ。前が立てば勢ひ後ろから罵る不平の聲が少しく出る。余は立つた時
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