のであつた。さうして角屋《すみや》というて尋ねて行けといつた。西陣を出たのは午頃であつた。二條の城の附近をめぐつて、場末の汚い溝のほとりを過ぎたりして島原までは長い道程であつた。大門の前にはもう乘り捨てた人力車がごた/\して居る。大門といふのは瓦葺の古い建物で大きなものではない。其前の空地も隨つて狹いので後から/\と車は込み合うた。巡査が邪險に車夫を叱る。大門をくゞると兩側の家屋の前には棧敷が作られて道が狹められてある。棧敷は大凡余が腰のあたりまでしか無いといふ程低い。東國に生長して宮角力などに能く造られた二間梯子を挂ける棧敷ばかりを棧敷と思つた目には一寸異樣に感ぜられた。赤い毛布で飾られてもう席に就いて居る人々もある。席に就かうとする人々もある。棧敷の後の店には膳や碗や皿を忙し相に取扱つて居る店がある。それでも何處にも喧囂の響を聞かぬ。棧敷の前には更に道を狹くして低い牡丹櫻が植ゑならべられてある。花はもう過ぎかけて居る。人がぞろ/\と繰り込んで來る。余は大門から突き當つて左へ曲つていつた。角屋の玄關には印半纏の男が二三人で下足を預つて居る。客はぞろ/\と上る。余は仲居のおゑんさんを尋
前へ 次へ
全22ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング