一つ挽くのが烟草二三服の暇である、
 水車の脇から又のぼる、坂の上から見ると小屋の外には挽きあげた板が又字なりに組みならべたのが一面に白く見える、ずん/\登る、南京米の袋で縫つた衣物に荒繩をぐる/\卷きにした老爺が榾を背負つて來た、小村が目の前に表はれた、才丸である、
 遙かあなたには焦げたやうな一脈の禿山がつゞいて居る、山のこなたは左右の山と山との間がひろ/″\として居る、狹い間ばかり見て來た目には殊に心持がよく感ぜられた、一縷の烟も立たない三四十の萱葺の丈夫相に見える家が一つ所に聚つて居る、産土の森のやうなものも見える、周圍の平らみは皆田である、田には高低が無いやうで、馬が十匹ばかり放してある、どの馬も下を向いて頻りになにかあさつて居るやうである、孰れを見ても閑寂な沈んだ趣である、
 禿山の頂近くには一筋の土手のやうなものが仄かに見える、「山は磐城の國境で山の陰には杉の木が一杯に植ゑつけてある、幅一間の堀を穿つて土手を築いて才丸あたりの馬が入り込まない用心をして居る、茲から見えるのが其土手であると獵師がいつた、
「此迄は丸であの山へ出たもんです、行きますともあれからぢやあずつと先ま
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