僅に伸び出して、菜の花が短くさき掛けて居る、ところ/″\に梅が眞白である、
 小豆畑を出拔けると道は溪流に沿うて山の峽間にはひる、笹はぼつさりと水の上に覆ひかぶさつて、山芋の蔓がびつしりと絆つて居る、頬白が淋しく啼きながら白い翅を表はして飛び出る、十三四位の女の子がついて小束の矢篠を背負つた馬がぼくたり/\とやつて來る、脚から腹まで一杯に泥がついて見すぼらしい姿である、
 素性よくしげつた杉のほとりを行く、此あたりの道は規則正しく拵へたやうに、横に一文字に低くなつては高くなり、又低くなつては高くなつてる、どこまでも同じやうである、低い所は蹄の趾で馬は必ずそこを踏む、泥水が溜つて居る、余等は飛び/\に高い所を踏んで行く、
 杉の木の部分を過ぎると左に又山の峽間が見えて僅かばかりの田がある、流には土橋が架つて岐路がそれへ分れて居る、三辻の枯芝に獵師が三四人休んで居る、炭をつけた馬が五六匹揃つて來た、田の間からも馬が二匹來た、五六匹の仲間は遠慮なしにさつさと行き過ぎる、二匹の方は土橋の際で若い馬士がしつかと馬の口もとを押へた、馬は口もとをとられながら後足をあげて一跳ね跳ねた、背中の材木が荷鞍
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