才丸行き
長塚節
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)魚扠《やす》で
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+牙」、第4水準2−14−40]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)すい/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、
滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにしてこごんだ儘走つた、炭坑會社の輕便鐵道を十町ばかり行つて爪先あがりにのぼる、左は崖になつて、崖の下からは竹が疎らに生えて居る、木肌の白い漆がすい/\と立ち交つて居る、漆の皮にはぐるつとつけた刄物の跡が見える、山芋の枯れた蔓が途中から切れた儘絡まつて居る、
小豆畑といふ小村へ來た、槎※[#「木+牙」、第4水準2−14−40]たる柿の大木は青い苔が蒸して幾本となく立つて居る、柿の木の下には小區域の麥が僅に伸び出して、菜の花が短くさき掛けて居る、ところ/″\に梅が眞白である、
小豆畑を出拔けると道は溪流に沿うて山の峽間にはひる、笹はぼつさりと水の上に覆ひかぶさつて、山芋の蔓がびつしりと絆つて居る、頬白が淋しく啼きながら白い翅を表はして飛び出る、十三四位の女の子がついて小束の矢篠を背負つた馬がぼくたり/\とやつて來る、脚から腹まで一杯に泥がついて見すぼらしい姿である、
素性よくしげつた杉のほとりを行く、此あたりの道は規則正しく拵へたやうに、横に一文字に低くなつては高くなり、又低くなつては高くなつてる、どこまでも同じやうである、低い所は蹄の趾で馬は必ずそこを踏む、泥水が溜つて居る、余等は飛び/\に高い所を踏んで行く、
杉の木の部分を過ぎると左に又山の峽間が見えて僅かばかりの田がある、流には土橋が架つて岐路がそれへ分れて居る、三辻の枯芝に獵師が三四人休んで居る、炭をつけた馬が五六匹揃つて來た、田の間からも馬が二匹來た、五六匹の仲間は遠慮なしにさつさと行き過ぎる、二匹の方は土橋の際で若い馬士がしつかと馬の口もとを押へた、馬は口もとをとられながら後足をあげて一跳ね跳ねた、背中の材木が荷鞍
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