で行つたんです、それでまあ才丸ぢや大きに困るやうなわけなんです、一間位の堀なんぞぢやあ馬が飛び越えて行くんです、夫れを山番がふんづかめえて來ちや談じつけられて、才丸の奴等時々飮まれるんです、
 獵師はかう笑ひながら言ひ續けたが坂の中途でどつかりと芝へ腰をおろした、脚絆を締め直すのである、脚絆は丁度竹を細く裂いて編んだものへ漆でも塗つたといふやうな鹽梅のものである、紙撚りで拵へて、猪の血を塗つて固めたものだといふのであつた、草鞋の代りに猪の毛皮で作つた沓を穿いて居た、獵師は才丸の入口の桑の木が立ちならんだ小さな流のほとりで別れた、突然けたゝましい聲がした、田の中に草をむしつて居た馬が尻を突き合せて跳ねたのであつた、
[#地から1字上げ](明治三十八年五月二十九日發行、馬醉木 第二卷第三號所載)



底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
   1977(昭和52)年1月31日発行
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2004年2月19日作成
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