月見の夕
長塚節

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)知合《しりあひ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「糸+墨」、第4水準2−84−59]まり

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例))そこ/\に
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 うちからの出が非常に遲かツたものだから、そこ/\に用は足したが、知合《しりあひ》の店先で「イヤ今夜は冴えましようぜこれでは、けさからの鹽梅ではどうも六かしいと思つてましたが、まあこれぢや麥がとれましよう、十五夜が冴えりやあ麥は大丈夫とれるといふんですから、どうかさうしたいものでなどゝいふ主人の話を聞いたりして居たので、水海道を出たのは五時過ぎになツてしまつた、
 尻を十分にまくし揚げてせツせと歩るく、落ちかけた日が斜に照しかけるので、自分のかげはひよろ/\とした尖つた頭になツて、野菊の花や蓼の花を突ツ越して蕎麥畑へ映る、それから粟畑、それから芋畑とだん/\に移つて行く、
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