小山戸を通り拔けて中妻《なかづま》へかゝる、速力はずん/\加はツてくる、かうして歩いて居る間に、少くとも三四人、六七人位の連中が男女混合でよた/\とやツてくるのにでツかはせる、大抵は若い同志で、いづれも草鞋ごしらへである、それがたえずでツかはせる、これらのものはみな大寶《たいはう》がへりなので往復にしては十三四里もあるのだから、少しはびツこ引くのも仕方がないが、草臥れてしまツたといふ鹽梅は多少の滑稽を交へて居る、
 五十恰好のあばた面の婆さんが、これはたんだ一人で左の手でへげ皮の饅頭かなにかの包を持つて頻りに頬張りながらやつて來る、
「八の野郎げ呉れべと思ツて買ツてきたが、小腹が減ツてしやうがねえから一つくひ二つくひ、はあ無くなツちやツた、野郎コンコ奴の假面《めん》欲しがツてだから、これやりせえすりや、よさあいゝが、そこらでまた二百がとこも買ツてくべえ
 などゝ思ツて居るのらしい、
 若い衆のなかへ交ツて殊に疲れたといふやうすの娘がある、お納戸の羽織で尻の大なのがいくらか隱れて居る、
「おらへのおツかも解らねえでしやうがねえ、自分のことべえ見て居て、自分で行きたがらねえツたツて、いつで
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