られる、さうしてさツきから嶺に棚引いた白雲は依然として居るのまでがわかる、田のへりへ出ると掛稻のあたりから、鴫でゞもあらう、きゝ/\と鳴いてどこへか飛んで去つた、しばらく歩行いて居るうちにそここゝの森から田を隔てゝぽん/\ぽん/\といふ音が聞え出した、小供らが卷藁を打ち出したのである、自分がまだ幼少の時分によくしたことであるが、手頃に藁を束ねて繩でぎり/\卷いて、そいつを擔いては家々の庭へ行つて力一杯に叩きまはるのである、その叩くと共に、
「大麥小麥、三角畑の蕎麥あたれ
とみんなで聲を揃へて叫ぶのであつた、卷藁のなかへ芋がらの干したのを入れると音がいゝといつて拵へて貰つたことであつた、今叩いて居る子供等もいかに樂しいことであらうと思ツた、自分はこの卷藁の音が非常に好きで、殊に眩ゆいやうな蕎麥畑の中へ立つてこの卷藁を聞くのはなんとも云へない善い感じがするのである、こんなことを思ひ浮べながら石下へついた、石下の町ではあかりはまツかについて居る、洋燈の下で夕餉をしたゝめて居る家があつた、さうしてその家の表へ供へた机の上の團子を猫がくはへ出して、机の下のくらがりで噛ツて居るを夕餉の人々は知ら
前へ
次へ
全9ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング