のである、鎌が頭からはなれたかと思ふと、空明になつた足へつけ込んで引張られるので、ひつくり返り相になつては左の足でひよん/\と跳ねては倒れるのを防ぐ、さうするとまた喉へくるといふので彼は頗る忙しいのでありながら竹刀が一向役に立たない、見物人は土間から棧敷から手を打つてはワッワと笑ふのである、「なんだいべら棒竹刀でやれ竹刀で、丸で相手ぢやねえや、子供を相手にするやうなもんだべら棒と、場中が沸き返るやうに笑つて居る中で一人から怒鳴つたものがあつた、彼は息せき切つて居る、薙刀つかひの娘に助言をしたさつきの男である、一同はまたこれがために笑つた、赤方はまた銀將の旗を立てられた、さうして立ち替つたのは背は低いが胴の太いがつちりとした三十四五の壯者である、行司が「赤方銀將の役神戸なにがしと呼び上げると相手の神代鎌に對する得物は三尺位の樫の棒のさきへ二尺ばかりの麻繩のうらには錘のついたものである、神戸なにがしは、麻繩のさきの錘を目にも留まらぬやうに振り廻しつゝ立向つたが、神代鎌もたやすくは手出しがならぬといふ鹽梅で構へて居る、さうして振り廻しつゝある錘は時々パラッと鎌のさきへ落ちてくる、鎌もその時ご
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