」に「ママ」の注記]いて引込む姿を見おくつた時は見物人は男のために拍手するものはなかつた、赤方の香車の旗は桂馬と替へられて出たのは竹刀を持つた若物で、肉付きは充分であるが屈み加減のチヨコチヨコと小股に歩行く男である、長身の男は竹刀を捨てゝ妙な武器を提げた、行司はその武器を一寸手に取つて、
「これは神代鎌と申しましてこれに附いて居るのは鎌でありましてさきから御承知の鎗でございますが、突けば鎗打てば鳶口曳けば鎌といふのですから中々骨が折れます、こんどの勝負は面白いでしやう
 と説明していよ/\立合になつた、神代鎌の方は例の悠然としたものであるが、竹刀の方はいかにもコセ/\とこせついて時々こつ/\と神代鎌のさきを叩いて見ては氣味の惡いといふ態度で逃足になつて居たが、「ヤお突きとそつと突いたと思つても決して受け流すことが出來ないので、彼の首はそのたびごとにぐらり/\と横を向く、しかし中々彼は降參しない、「駄目だ/\など、怒鳴りながら竹刀で左右に拂ふのであるが彼の竹刀の動く時は鎌は手元へ引きつけてあるので、何遍でも喉元へ鎌が屆く、さうかと思ふと鎌を頭へ引つかけては引張られるので彼は行くまいと爭ふ
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