する、薙刀の尖と竹刀の尖とが三四寸相交つて居る、行司が念入に兩方を見比べてさつと軍扇を引くと共に力は兩方の體に充滿する、暫くの間は互に聲を掛け合つたが薙刀が「お面ッと打ち込んだ、薙刀が打ち込むと同時に竹刀は頭上に揚げられたのでこの一撃は空しくなつた、竹刀は薙刀を受けると共に敵の手元に切り込まんとしたのであつたが、薙刀の切つ返しが瞬く間に右の脛を襲つたので、その暇もなく一尺ばかり飛び上つた、薙刀は再び效を奏しなかつたが敵の姿勢を立てなをさぬうちに逆に左の脛を切つ返したので、バキッといふ音がしたかと思ふと薙刀つかひは「お脛といひながら突つ立つた、「低いぞ/\なんだそんな所ぢや駄目だと竹刀の方は承知しない、「いゝとこですよ、あれよりいゝとこは有りませんよと薙刀つかひの爭ひかたは非常にやさしいのである、「さうだとも充分いつてらァ、くず/\云ふない女に負けた癖にと薙刀つかひの出た側のぢき埒の外に扣へて居た見物の一人が叫んだ、行司はしばらく微笑を含んで伏目になつて考へてるやうであつた、
「見物のお方も勝負があつたといふしパキッと云ふ音があんまりいゝ音でしたから仕方がありますまい、それでは二本目ッ

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