ら愈々餘興として紅白旗取勝負といふのを御覽に入れますが、これが終りますれば飛入さんとの三本勝負もありまするし、なほ他にも御座いますれば何卒滿場一致の諸君はゆる/\と御見物の程を願ひます」と切口上をいつて片方の床几に腰をかけた、はじめからの餘興も面白いが滿場一致の諸君も妙である。さうして見物人は茫然としてこの男を見つめて居るのも益々可笑しい、以上がすむと左に面小手を撥[#「撥」に「ママ」の注記]い込んで右に薙刀を拔いた十七八になる女の子が現はれた、目元口元のたしかな色の白い彼れの容姿は頗る見物人の目を惹いた、つゞいて肩を怒らかした若物[#「物」に「ママ」の注記]が竹刀を持つて現はれた、雙方に別れて莚の上に扣へて居る、床几に倚つて居た行司は二つの手桶に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してある旗の中から香車とかいた旗を兩方に立てゝ、
「こなた赤方香車の役石井よし女こなた白方……
と名を呼び上げると各々面小手を付ける、面小手を付けると中央に出て三歩位の距離に片膝をついて扣へて居る、行司が、
「勝負は正しい所を三本ッ
と言ひわたすと互に立ち上つて身構を
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