の方では六十ばかりの老人であるが相手に立つたのは二十八九にもなるかと思はれる女で水髮をしつかと結んだ小麥肌の、女としてはづば拔けて脊の延びたのであつた、「この女でしやう薙刀つかひといふなァ「向ふの爺さん警察の小使ですがね、もとは目録以上の撃劍家なんですが、どうですか年が年ですからと見物人は老人を危ぶんだ、行司は「白濱きく女と薙刀つかひを呼び揚げる、同じく老人の名も呼び揚げるとしづかに立つて相向つた、老人はもう充分に構へた、行司も軍扇を引くばかりにして待つてる、薙刀つかひは稍おくれて薙刀を杖[#「杖」に「ママ」の注記]いたまゝ左の手で胴を一寸搖かして居るといきなりパカ……と薙刀を打つ倒して飛び込みざま腦天をしたゝか打ち据ゑた、「軍配も引かないぢやありませんかといふ女の聲は恨と怒とを含んで居る、この一喝をくらつて更に姿勢をとつた時は薙刀つかひはもう見苦しい不覺をとるものではない、その道具に固めた姿は一見して男子である、老人はどうかと見ると悲しいことに腰が曲つて、さきの足が出過ぎて居る。左から拂つた薙刀は容赦もなく脛を切つた、老人の竹刀は構へたまゝ動かない、「あなたあんまり足を出してるからい
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