据ゑるのである、尤もこれは勝負のうちには入らない、さうしてはまた離際に横なぐりに掻つ拂つた、「いやだよ/\、横面はもうまゐりませんぞ、どつこいそんなことではいけませんぞと相手の若者の用心は深くなつた、「無念流だからその積りでなくつちやいけない、どうもこれは取組が丸で違つた、なんと云つてもまだ十八にしかなりませんからなどと行司は獨言を言つて見て居る、行司とは隔つた莚の上に角力ならば年寄といふ格で坐つて居る六尺もあらうかと思ふ長大な老人が微笑を含んで注視して居る、紺づくめの攻撃はちとも衰へない、打ち据ゑ/\突き入るので若物[#「物」に「ママ」の注記]は逃足だつて埒に添ふてぐる/\めぐりはじめた、がつし/\と振冠つては竹刀を打下ろすのであるから見物人の目からも胴のあたりの隙が見られるのであるが、打ち下す力の凄いために隙だらけの胴に切り込むことが出來ないので竹刀の方は防ぎ一方に逃げまはつて居る、見物人は拍手をしなからわつわと笑ひこける、行司はつと立つて竹刀の中へ割込んだが「この勝負は行司預りおきますと引き分けてしまつた、「うまいぞ行司いゝとこだと叫んだのはさつきの男である、次に現はれたのは飛入
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