いたり樹を搖ぶる眞似をしたりして騷いだけれど彼等は一向平氣で枝をゆさ/\と搖して居る。猿といふものは何處で見ても剽輕なものである。道者の一行が騷いで居るうちに先達は一人で行つてしまつたかして後姿も見えなくなつた。ばら/\と先達の後を追ひ掛けながら道者の一人がいふのを聞くと、此前に來た時は猿が丁度栗を搖り落した所へ通りかゝつたのでみんな拾つてしまつたら枝から糞をかけられたといふのであつた。

▲烏
 山巓の小さな社の縁《えん》へ腰をかけて一行の者は社務所で呉れた紙包の握飯をひらいた。縁先には僅かに二坪ばかりの芝生がある。何處から來たか烏が二羽來て一羽は芝生のめぐりに立つた樹木のとある枯枝へとまつて一羽は足もとへおりた。おりた烏は嘴をあげたり首を曲げたりして握飯が欲し相に見て居る。余は鹿の土産がまだあつたので投げてやつたら、ひよいと一跳ね跳ねてそれを咥へて元の處へ戻つて足で押へて啄むのである。さうして又嘴をあげたり首を曲げたりして見て居る。握飯を包んだ紙を投げてやつたら嘴で引返し/\して其紙の中の飯粒を啄むのである。幾百千の參詣者が繰り返し/\登山するので烏までがこんなに馴れてしまつたもの
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