た。男は松島のホテルへ鰻を賣つて歸りだとのことである。此所らの近道は此邊の人でも知つて知らずだのに能くわかつたと彼はいつた。鰻賣が教へてくれた道を來たら雜木の間で低い草葺のたつた一軒家へ出た。縁先では白い手拭をかぶつた娘が一人で絲を小※[#「竹/(目+目)/隻」、第4水準2−83−82]《こわく》に掛けて居る。ぼくり/\と音がするので家のなかを覗いて見たら十五六の舍弟らしいのが土間で麥を搗いてるのであつた。余は此一軒家が何となく面白く感じたので縁の隅へ腰を掛けると娘は急いで小※[#「竹/(目+目)/隻」、第4水準2−83−82]と共に膝をずらして余に席を與へた。小※[#「竹/(目+目)/隻」、第4水準2−83−82]の側には胡瓜が五六本轉がつて居るので一本剥いて見たくなつたから無心をすると娘は小※[#「竹/(目+目)/隻」、第4水準2−83−82]の手をやめて戸袋の蔭から柄の短い錆びた鉈を出してくれた。此れで皮をむけといふのである。狹い庭には糠交りの麥が筵へ二枚干してあつて其先には鳳仙花がもさ/\と簇つて居る。其下が崕である。余はすゞろに興を催しながら鳳仙花の傍に立つて此の意外な庖丁を
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