すつかり其圖に當つた。おすがのもとへは兼次もいつか入りこんだ。さうして松山から買つた畑を讓つてもらつて自分の喰ふだけの働きをすることにまでなつた。赤子は笑ふやうになつた。只さへ少し愚圖なお袋は、もう可愛くて迚ても手放すことが出來なくなつて、二人が仕事に畑へ出れば自分は子守をして居る。赤子が泣けば畑へ抱いて行つて乳を飮せる。おすがの兄貴も忙しい仕事の時には兼次を連れて來て働かせるといふやうに成つた。雙方の間は理窟なしに睦ましいのである。斯くして時日は經過した。然し時としては村で口の惡いものは
「兄貴も餘まり構はねえから仕やうがねえ。どうも兼次をあすこへ入れて置くといふのは卵屋の顏を踏みつぶすやうなものだ。あれぢや仲人が幾ら立つても噺の屆かねえな無理もねえ筈だ」
 と噂さをすることはある。旦那のお内儀さんも或時四つ又に向つて
「あの兼次が一件だがね。お前方の指圖で松山のうちへ入れたんだ相だがどうもあれが卵屋では心外に思つてるらしいんだがね。此はお前方にも不似合な計らひだと思ふやうだがまあ一體どうした譯なんだね」
「どうもさういはれるとわし等は誠に惡い者に成る譯なんですが、あの時は全く今夜に
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