ひでもした樣子はあんめえかねえ」
「なあに眞ツ膨れに肥えて來たからなんにも苦勞することはねえよ」
「おらあまあ獨りで心配なんだよ。眠つても眠れねえことがとろつ日《び》だよ」
「困つたもんだよ本當に」
 四つ又は火鉢の前へもどる。さうして
「ツアヽ」
 と一聲大きくいつて
「おれも三春へ行つて見てえ積だが、こんだ行く時にや一緒にすべえぢやねえか。豚も醤油粕が高くつて困つてる所へ四掛や五掛の相場ぢや割に合はねえからな」
かういふと卵屋はむつくり起き上つた。
「本當に行くんぢやあんめえ」
「本當だともよ、駒なら草だの藁だのばかし喰はせてみつしら使つて二三年もたてばたえしたもんだな」
「四つ又でも三春へ行つちや目うつりして買ひめえと思ふんだ」
「戲談いつてらそんなことにやおくせは取らねえんだぞおらなんざあ」
「あぶねえな、豚の手にやいかねえから見ろよ」
 噺はいつか賑かになつてさつきの不機嫌もどこかへ行つてしまつた。
「それぢやどうしても兼こたあうつちやんだな。おら今夜はどうでもかうでもうんと云はせべえと思つたんだが當《あて》が外れた。雪で歩けなくなつちやつまんねえからおら歸るぞ、そんぢや、兼
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