おれも呆きれた。そんでも此んでも聞いてもらあなけれやあなんねえんだ」
「又兼が噺か、その噺ならしねえでもれえてえ」
「それだからおれが聞いてくろうつていふんだよ。おすがの腹がえかくなつて今落ち相になつて歸つて來たんだが、どうも此までとは違つてこんだあ捨てゝ置けねえこつたから向の親類でも困つてんだ。おすがも五六日こつち小便も近くなつたといふんだから今夜にもあぶねえんだ。それがうちへ寄せられねゝえんだから今出來る子供の産す場所がねえ譯なんだ。此所のところはまあどうしたもんだな」
「どうするつておら駄目だよ」
「まあようく考《かんげ》えて見てくんねえか、自分の息子が人の大事の娘を引張り出して隨分世間へも外聞を曝して揚句の果が孕ませてそれでこつちゞや嫁に貰ふことも出來ねえが、趣意もつけられねえ腹の子供がどうなつてもえゝつて云ふんぢや向の身に成つても隨分酷かんべと思ふんだな」
「趣意なんざあ文久錢一文でもおら出せねえよ。向で欲しけりやおら兼の野郎呉れつちやつて構あねえ。おら相續人なんざあ外から養子したつてえゝと思つてんだ。おら旦那にいはれたつて聽かねえから駄目だ。旦那に怒られて村に居られなくなり
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