ことにあとで獨りで泣いた。晝近くなつて兼次はひよつこり歸つて來た。どうしたのだと聞くと境街道へ連れられて二三里も行くと
「われがことはこゝでうつちやんだ。境へ行くなら此れ眞直だ」
といつて小遣錢をくれて放されたのだといふ。それで親爺の姿が林の角に隱れた時に自分は林傳ひに先廻りをして來たのだといつた。
お袋は仕方がないから暫く親類にでも厄介に成つて居ろといつて自分の巾着をはたいて兼次を出してやつた。親爺は晝過になつて歸つて來た。お袋は
「おら兼こと可愛いからあとで泣いたよ」
とつく/″\いつた。此のお袋が今日まで家内に風波を起さないのはおとなしく我慢をして居るからなので、嘗ては怨みがましいことをいつたことは無かつたのである。
六
此の事のあつてから幾らもたゝぬ内におすがの姿も村には見えなくなつた。兼次が連れ出してしまつたのである。能く/\聞いて見ると此もおすがのお袋が一つで旅費までやつたのだといふことだ。彼等は兼次の叔父が聟に行つて居る栃木の在《ざい》へ辿りついた。叔父は國元へ手紙を出した。返事は至極簡單で只捨てゝ置いてくれとあつた。さうかといつて其儘にはお
前へ
次へ
全50ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング